#004 動から静へ時間を掛けて変遷してきたミシェル・ンデゲオチェロは、今どんな目で人や社会を視てるのだろう。

上記の曲は、ミシェル・ンデゲオチェロ(Meshell Ndegeocello)の9枚目のアルバム『Weather』に収められている『Dead End』の、KCRWというアメリカのラジオ放送局でのスタジオ収録版。当アルバムのアレンジとは気持ちちょいと違う、初期の彼女を感じさせるグルーヴが手前に出てる仕上がりで、とても好きなバージョン。

1993年『Plantation Lullabies』デビューで、他とは違う多彩でユニークなベースフレーズ、指弾きやスラップなどの確実なテクニック、作詞・作曲・アレンジ、様々な楽器を操るマルチプレイなどなど、溢れる才能をこれでもかと発揮し、音楽批評家だけなくミュージシャンズ・ミュージシャンとしても注目を浴びたそうです。
私も当時、これはまたエラいミュージシャン、いやアーティストが出てきたなと思い、それ以来ずっとファンで、目が離せない存在。

『Plantation Lullabies』の1曲目『Plantation Lullabies』からの2曲目『I'm Diggin' You』の流れと、

1996年『Peace Beyond Passion』の1曲目『The Womb』からの2曲目『The Way』のそれは、なんというか溜めていた熱情をバッと開放していく様が、グルーヴクレクレ厨のお腹を満たしてくれる粋な計らい。


しかし、3作目の1999年『Bitter』では、前2作のハイファイオシャレサウンドグルーヴ満載から表情を変え、ルーズでローファイな空間、体温が伝わってくるようなヴォイシングなど、彼女の多面性を如実に表す作品となっている。歌うことに主眼を置いて作ったのだろうか。1曲目『Adam』が西洋っぽいインストで、10曲目『Eve』が東洋楽器を取り入れたようなサウンド。この辺りも掘り下げて、全体の構成に込められた意味を静思するのも面白そう。


2002年の4作目『Cookie: The Anthropological Mixtape』では、前作のオーガニック感はそれとなく残り香として漂いつつ、当初のグルーヴに重さがさらに加わり、ファンク、ジャズ、ソウル、R&B、エレクトロ、ロックなどの様々なエッセンスが、彼女という孤高のフィルターを介して、濃縮還元されている。ベースが上手い人って、音価、タイミング、ビブラートなどの色付けをコントロールする術が極めて匠で、頭で考えることはもちろん、フィジカルで瞬間的に表現できるんだろう。結果、それらは一つのうねるグルーヴとなり、全身に伝わってくるので、もう腰が持たない。1曲目の『Dead Nigga Blvd., Pt. 1』で、すでに腰に来る。もちろん、良い意味で。


2003年5枚目『Comfort Woman』は、冒頭からハネるリズムに、ダブさながらの広がっていく空間が展開、そこに奥深く減衰していく音に誘われてリスナーを引き込んでいく。
特に3曲目『Andromeda & the Milky Way』のサビは、どこまでも遠くまで行けそうな浮遊感を、ルーズで複雑なビートが地面に止めようと手を伸ばしてくれているようで、なかなか他では経験出来ない時間軸がある。


2005年6枚目『The Spirit Music Jamia: Dance of the Infidel』は、今まで所属していたマーヴェリックを離れての第一弾であり、ジャズ・プロジェクトという、今までの作品の中でも見え隠れしていた彼女のジャズを、ケニー・ギャレット(Kenny Garrett)、ジャック・ディジョネット(Jack DeJohnette)、レイラ・ハサウェイ(Lalah Hathaway)などをはじめ、沢山のミュージシャンたちとのコラボレーションで仕上げている。その内容もテンションを抑えめにしているが、それぞれの存在感がしっかり伝わってくる楽器群に、しっとりとしたボーカルが絡んでいく様は、極めて上質な空間に没入させてくれる。特に6曲目『The Chosen』のカサンドラ・ウィルソン(Cassandra Wilson)の低音は耳にした方がいい。


2007年7枚目『The World Has Made Me the Man of My Dreams』。オフビート且つメインストリームの近くに横たわる様相を組み合わせて、これまた今までと違う空気を作っている。ポリティカル、スピリチュアル、ポップ、サイバー、ロック。。。ごった煮かと思わせておいて、きちんと聴くと彼女のソウルが定着しているのを知ることができる。


2009年8枚目『Devil's Halo』。このアルバムを聴いていると、低予算で、ざらついたフィルムで撮られたロードームービーを想像する。進む方向は決めているんだろう、珍しく8ビートに乗せて、言葉少なに歩みを進めている印象。その道中、目に入った風景が少し乾いた心を潤し、時折声が大きく出たりなんかしちゃったり、気づくと足が重くなっていたり。8曲目『Devil's Halo』の意味、悪魔の光背が照らし出すものが、何なのか、内省を促してくる。ここまでスピリチュアルなロックアルバムってあるかしら。


2011年9枚目『Weather』は、全体的にアコースティックで、スタジオ〜小規模ホールのようなリヴァーブ空間。立ち込めるアンビエント。しかし、眼尻は確実に切り上がっている。以後の彼女の方向性が見えてきたアルバムな印象。以下、2曲ほど。


2012年10枚目『Pour une Âme Souveraine: A Dedication to Nina Simone』は、公民権運動に傾倒したことでも有名な不屈の人、ニーナ・シモンへのトリビュート。一時はファッションアイコンにもなったニーナのその後の人生は、おいそれと理解できるものではないだろう。そして、ニーナの力強いピアノ、独特の太い声に対面したら、どうなるのかと思ったが、彼女は全てを掛けて表現している。


2014年11枚目『Comet Come to Me』。第二期に入った彼女は、特定のジャンルに縛られず、ミシェル・ンデゲオチェロとして、孤高の音楽を確立している。これまで駄文を貪ったが、以下オススメ2曲で締めよう。それがいい。

あ、明日12枚目のアルバム『VENTRILOQUISM』が発売されますよ!
今回は、カヴァー・アルバムとのこと。楽しみだ。



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